数日前に、後輩に「arpを言葉に例えたら何?」と聞いてみると、彼女は「天使だ」と答えた。
メロディか、声か、雰囲気か。もしくはそれ全部か。何がどうと聞かれると、言葉にはできないのだが、彼女の答えが僕にはとてもよくわかる。雲ひとつない青空の下、羽のない天使がふたり。
彼らの想いを届けに来ていた。
まだ誰もいないステージに、一際目を惹く、長い、純白の布。それがステージの箸から端に、きれいな曲線を描くように垂らされている。まるで、空からかかる道のよう。
そして、弦楽器が2本並び、ピアノが置かれている。
どこかの神殿か、宮殿か。そんな風に見えなくもない。
リハーサル。僕はこの時間がとても好きだ。自由に跳ねまわる音たちが、表現者に操られ、共に踊りだす。この過程なくして、世界は創れない。
時が経つにつて、ひとつになっていく音たち。
初めての曲でも、彼らの手にかかればとても美しく響かされる。
飛び立つ準備は、できた。
そして、もうひとりの主役。
ふたりのためにここまできてくれたファンたち。ゆっくりと埋まっていく会場。
全て、整った。
[2006/12/3(sun)LifePalette-羽化-
@渋谷Duo Music Exchange]
1. forest
2. Reborn
3. Everything is beautiful
4. 金木犀
5. まぶた
6. 夕立
7. 満月
8. 優しくなりたい
9.「ありがとう」あなたに逢えて…
10. あなたに逢えて…
11. Good Night
12. 風が吹いてた(弾き語り)
13. nostalgia
14. OVER
15. 桜
16. お休みなさい
17. 幸せであるように
18. 横顔
19. 明日はくるから
encore-1. ウレシ泣キ
encore-2. IRONYテーブルのキャンドルだけが光を放つ、森の中。
そこで待つ人のもとへ。
濱田、ギターの川上、チェロの百瀬が舞台へ。
forestが終わり、音が踊りだす。
曲は『Reborn』
あん朱が出てこない。正面のスクリーンに光が差す。
そこに、arpの創りだしてきた曲たちのPVが流れ始めた。
今までの自分たちの道を見てもらうように、また、振り返るように。 ふたりの歩んできた軌跡が、ここまで来た道のりが、そこには映し出されていた。
曲が2番に入ろうとするところで、あん朱が舞台に現れる。
そして、うたいだす。
「恋をした。夢を見た。時には泣いたりした。」
自分たちの軌跡と共に、全て抱えて生きていく、と、うたうあん朱。そこには、彼女のここからの想いが、強く強く込められていた。
1曲目にして、聴くものを完全に惹きつけたarp。
目には決して映ることのない。だが、確実にそこに存在する世界が、その場の全てを包み込んでいた。
続けて、『Everything is beautiful』
確かに、今、この世界に存在するものは、全てが美しい。
だけど、美しいものが、時に悲しみを生むこともある。
3曲目『金木犀』
ただただ、切ない。全身に響き渡る音たちが、聞く人心を震わせ、
その美しさが涙を誘うのだ。
あん朱が「Life palette ~羽化~」の始まり宣言する。その目が、少しだけ震えていた。
『まぶた』、『夕立』、『満月』、代表曲が続く。
さすが、ライブでは欠かさずと言っていい程うたってきた曲たち。
テイストは違えど、情熱的で、音に強く感情を込められる曲。何度でも、人の心を惹きつける。
月を写し終えたあん朱が、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくり、
「あん朱ってあついなって言われた。言われて初めて気がついた。」と語りだした。
熱いという言葉が、彼女に適切なのかはわからないが、胸に強く輝く想いを持たない人間が、
どうして人の心を動かすことができるだろう。
もしそれを熱いと呼ぶのであれば、あん朱は熱い。
そしてまた、彼女の想いは声にのる。
7曲目『優しくなりたい』
チェロとギターがきれいに響く。そして、あん朱の声がその上を駆ける。
大舞台には、その瞬間のベストのアレンジを生み出す。濱田のかける魔法は、
聞き手にいつも違った色を感じ続けさせてくれる。
職人、と言うべきだろうか。常に新しいものを提供し続ける彼の姿勢に、
また、聞き手は心を動かされるのだろう。
「ありがとう。」
ピアノが響きだすと、あん朱は舞台に置かれた椅子に座り、詩を朗読し始めた。
この世のどこかで生まれた、母への想い。この世のどこかで生まれた、叶わぬ相手への想い。
『あなたに逢えて…』のメロディにのせて、その「ありがとう。」を語るあん朱の姿に自分を重ね、
霞むステージに、言葉の力を痛いほど感じていた。
その想いを受け継ぎ、あん朱が『あなたに逢えて…』をうたう。
とてもとても長い拍手が、彼女に贈られた。
続いて『Good night』
今回は、あん朱とギターでのお届け。
優しく弾かれる弦の音と、あん朱の声。幸せいっぱいの女の子がそこには立っていた。
きっと、いい夢が見られる。
ここからは、恒例の弾き語りとインスト。
今回あん朱は、友達への想いと共に、『風が吹いてた』を披露。
途中で弾けなくなってしまうというハプニングにも見舞われたが、最後までやりきった。
そして、お客さんは暖かい。
大きな拍手が贈られる中、舞台中央でタッチを交わし、濱田がピアノへ。
「しめしめですな(笑)」と、しっかりあん朱をカバーして、会場も盛り上げる。
そして今回濱田が演奏するのは、「nostalgia」。
先日亡くなった彼の愛犬への想いを、ピアノにこめて。
きっと、誰もが忘れない。
「後半戦、一生懸命やりたいと思います。」
濱田の言葉より、『over』そして『桜』へ。 それぞれが、思いおもいに表現する激しさ。
それぞれが、心を込めて奏でる美しさ。 そのギャップに、魅せられた。
15曲、どこかなつかしく、神秘的な匂いを漂わす、子守唄のような新曲。『お休みなさい』
続いて、『幸せであるように』『横顔』
なんだか、夢を見ているみたいだった。
今までと同じ、だけど、もっともっと心地よく、優しい、そんな世界をarpは創りあげていた。
「1年前は不安で泣いた。」
あの日から、ここまで来て。
「今は自分たちの未来を、心から信じることができる。」
あん朱は今の心境をそう語る。
そして最後に、ふたりはこの曲を用意していた。
最終曲『明日は来るから』
涙を流しながらも、あの時、歩みたい道があった。あの時、信じた未来があった。
だから今、ふたりは飛び立てる。
「僕らの未来は この空の向こう側で 待っている」
そう。 またここから、自分たちの想いを信じて。
背中を守る白い幕が、天使に羽を与えたように見えた。
終演後、
ピアノが弾けなくなってしまった悔しさが涙となった、あん朱。
「ここを乗り越えて、大きくなっていくんだ。」と、濱田。
そう、ふたりはこれからもっともっと大きくなる。
多くの人が、それを望んでいる。ふたりが思っているより、もっと多くの人が。
満足そうに、アンケートを書く方。CDを手に取る方。笑顔で会話をする方。
この光景を見て、誰が失敗だったと言えるだろう。
性別や年齢の垣根を越えた、多くのファンたちがこうしていつもarpに会いに来てくれる。
時代が、社会が、arpを必要としているのかもしれない。
そして、ふたりの曲は、世代を超えて、語り継がれていくのかもしれない。
Life palette ~羽化~
終了。
迷うことなく、飛んでいける。
text by Mura Jun
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