― たった一度。何もかも、諦めようと思った。―
会場で配られるアンケートや雑誌に混ざって、濱田の文章を記した紙を見つけた。
ただのA4の紙だ。他のものと何も変わりはしない。
僕はバッグを持っていなかった。だから、その紙を折りたたんでポケットにしまった。
渋谷WOMB。都内一の照明設備を備える、その道では有名なクラブだ。
今日の舞台は、ここ。濱田憧れの地。
セッティング中、その片鱗が見え隠れする。これらが一体何を生みだすのか、照明の知識がない僕にはわからなかったが、きっと彼の中には、今まで膨らませ続けたイメージが、今現実となろうとしている喜びが溢れ出しているのだろう。

客席から、じっとステージを見つめるあん朱。緊張していた。
思い入れが強ければ強いほど、感情は高ぶるし、緊張も増す。この日を、待ち侘びていた気持ちが表れているのだろう。
ただ、こんなに厚い弦の存在は未だ感じたことはない。
[2008/1/26 ワンマンライブ「零」@渋谷 WOMB]
0.forest
1.優しくなりたい
2.ウレシ泣キ
3.No Eternity
4.愛をしよう
5.桜
6.キラリ
7.YES!
8.あなたに逢えて…(弾き語り)
9.旅立ち(Instrumental)
10.おやすみなさい
11.沈黙と青い空
12.金木犀
13.満月
14.横顔
15.わたしのこえ
Encore-1. Reborn
Encore-2. 光のさすほうへ
初めて立つ場所に、感じたことのない、光と音。
新生arp 第二章 ― 零 ―
物語の先へとつながる、大切な一幕。
その声で、その手で。ページを開こう。
スモークが霧のように漂う会場にforestが流れ出す。
例えそこが体育館でも、野外でも、この音は場所など選ばない。
演者が揃い、あん朱が礼をし。体を起こす。
その時、一瞬だけ感情が顔に表れた。彼女の目の前には、会場を埋め尽くした大勢のファンがいた。
拍手がやみ、静まり返った会場に、ストリングスの五重音が響きだす。
その瞬間、会場に光が降り注いだ。
― 優しくなりたい ―
音が、光と並行して飛んでくる。今まで感じたことのない、大迫力。
その衝撃を消化できぬうちに、次の曲が始まる。

― ウレシ泣キ ―
あん朱が、本当に嬉しそうな顔をしている。
笑顔から溢れ出る声に、ストリングスの音が優しくの寄り添う。
今までで、一番綺麗な音だった。
「最後まで、ゆっくり楽しんでいってください。」
多くは語らない。なぜなら、次は新曲。

― No Eternity ―
とても軽やかなラブソング。
ピアノとストリングスがのびやかに響く。
永遠などない。だけど、きっと永遠を祈るうた。
新曲一曲目、とてもいい滑り出しだ。
続いて ― 愛をしよう ― ― 桜 ―
そして ― キラリ ―
「ありがとう」
とても気持ちよさそうなあん朱。
アップテンポな曲が続いたからか、ステージから勢いを感じる。
次もアップテンポな曲、そして新曲。
― YES! ―
ストリングスが美しく響き、あん朱のよく通る声がその中を駆け抜ける。
~踏み出したこの一歩が見えないスタートライン~
その一歩を踏み出す勇気がもらえる歌。

ここで、あん朱を残し、メンバーが舞台を降りる。
ここからは、あん朱の弾き語りの時間。
今回お送りするのは「あなたに逢えて…」
喜び、緊張、不安、全てを指先と声に籠めて。
大きな拍手が、彼女を包んだ。
あん朱と入れ替わり、濱田とストリングスチームが舞台へ。
続いては、濱田のインストメンタル。今回は、Life Pallete -運命- 以来の
ストリングスとの共演。
歩きだす。その時を迎える全ての人へ。
― 旅立ち ―
自分が何かの物語に入り込んだような錯覚を起こす。
5人全員の魂が、きっと全ての人のもとに届いたはず。
あん朱が戻り、続いてはこの曲を「零」ヴァージョンで。
― 沈黙と青い空 ―
今日初めて、あん朱が見せるクールな表情。そして声。
激しさが増し、爽快感がある。
続いて ― 金木犀 ―
ビオラからチェロ、チェロからヴァイオリンへと音を渡す。
その美しさといったら、ない。
「>Redirect」に収録され、曲としてさらに磨きがかれられた。

物語は、一気に加速する。
今までで、一番強い光を放つ月。満月。
今までで、一番美しい明日のフレーム。横顔。
物語は、最後の段落を迎えた。
息を整えて、あん朱が言葉を紡ぐ。
「ありがとう」
ここ、WOMBで、いつかの目標の地で。濱田、今何を思う。
「>Redirect」はリリースされないはずだった。
ワンマンライブ「君」から7か月。一歩も進めないはずだった。
だけどarpは今、沢山の人に見守られここに立っている。
立たせてもらっている。
今ここに立てていることに。
「>Redirect」を届けられたことに。
ここからまた、歩けることに。
全てに感謝をして。
最終曲 ― わたしのこえ ―
~ わたしはあなたが必要なの ~
とてもいい、ステージだった。

終演後、ステージ裏。
あん朱はうまく歩けない。
出口には、大勢の人が待っている。その思いだけで足を動かした。
ふたりで、歌を聴いてくれた人全員を見送った。
そして、ふたりと挨拶を交わす人全員が、とてもよい表情をしていた。
「>Redirect」は発売後、かなりの反響を呼んでいる。
次の章では、さて。何が待っているだろうか…。
そして 新生arp 第三章
「光」
水無月の夜に、光、輝く。
― あのときの僕に、今、言葉をかけられるとしたら ―
― 辞めるな ―
― 未来は、まだある ―
今日のことを、僕も、忘れないと思う。
Mura Jun
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